一歩一歩連鎖反応

音楽、映像、アイドル

荒野の奇跡の歌詞と白銀リリィというアイドルについてのまとまらない表現

…ニテノミキハツセンデリタガノモノケダミキ…

 

 荒野の奇跡 (ななせ from AIKATSU☆STARS!)

(リンク先YouTubeの公式MV)

の冒頭の歌詞(歌詞カード通りの表記)ですが、察しのいい人は歌詞カードを見ただけでもすぐ気づく通り実際は逆再生で歌われてます。

強めにリバーブがかかったまま逆再生にされていて聞き取りにくいのですが逆再生しなおすと確かに

「君だけの物語 伝説は君の手に」

と歌っていることが分かります、過去へ遡るような、未来からの言葉のような感覚。

http://www.kasi-time.com/item-82079.html

歌詞は上記URL参照してください

 

 「荒野の奇跡」はアイカツスターズ!2年目星のツバサで白銀リリィちゃんが歌う曲なのですが、個人的にこの曲の歌詞には複雑な文脈、立ち位置の表現を感じておりまして、一度文字に起こしてみようと思った次第です。なぜ今なのか、それは思い立ったからでしかありません。

 歌詞についての考えを書く前に曲の構成について軽く触れると、この曲は5拍子の箇所が幾つか存在する曲で、Aメロの前後及び最後のサビの後に4小節ずつ5拍子の部分が挿入される形。

 この5拍子の部分はまるで語りが入ったかのように(この曲にはコーラスがクレジットされているのですが、おそらくこの部分の声はかなりコーラスが強く入ってる)前後の部分に割り込んで力強くまくしたてるように主張してくるのが特徴的で、ゆったりとしたAメロBメロのメロディとは乖離しています(DCDではこの部分がリズムゲームのプレイと重ならないようになのかスペシャルアピールをする部分になっているくらい異質)。また、最後のサビ前Cメロの部分でもこの5拍子の部分と同じようなリズムの歌詞が入ってきますがここは4拍子のまま、5拍子の時よりも更に一気にまくしたて、そのままサビにつなげてきます。ここが非常にクール。全体的に言えば楽器選びからもバロック音楽を思わせる荘厳な曲に情緒的な歌が乗ってくる繊細ながら荒々しさを内包しているような、白銀リリィらしい曲。

 

 いろいろ書きましたが本題としてはこの曲の立ち位置、ほかの曲との関係性を考えます。

 ざっくり言えばリリィ自身が抗えぬ力に寄り添いながら生きる、雨を降らす天使、この天使と昔大地に花を咲かせた天使の対比、そしてあらゆる煌めきの中で自らのアイカツの意味を探るような歌なのかなと解釈していますが冒頭から、

「天と地が恋をして 花は咲き鳥は舞う 太陽と月はただ 照らしだす地の果てを」

この曲において冒頭の逆再生部分を除くと最初と最後に出てくるフレーズ、非常に印象的で、現実味を感じない、何かの神話でも読んでいるかのような歌詞。天と地が恋をするというのがどういうことなのか、花と鳥、太陽と月、どこかで見たような、そのまま作品中でもそれらしき人がいるようなキーワードが満載。そんな中で、アイカツがシリーズとして輝きや光を重視(アイドルアニメですから当然といえば当然)しているのは「輝きたい衝動に素直でいよう」(スタートライン!サビ)といった歌詞や過去のOP曲SHINING LINE*、この曲と同時期、スターズに入ってからのOP曲STARDOM!という曲名が示す通りですが、ここでは地の果てまで照らし出す太陽と月の行為を「ただ」照らし出すと言っています。照らし出すこと自体を否定はしないのですがその行為に対して素晴らしさを語ろうとはしていない、この表現が開始早々もう引っ掛かります。

 ここから気になる部分を抽出していきますが

 

その昔荒野へ舞い降りた天使が白い羽根を大地に蒔き花に変えた、という1番Aメロ、一義的に決めることは難しいですが白銀リリィの立場を考えると、作中で天使と形容されているような人物は彼女が四ツ星学園に入学した時のS4白鳥ひめ先輩。ゆめちゃんと違ってキュートタイプではない上に主人公と比べることになるのであまり描写が多くないのですが、リリィ先輩もまたひめ先輩に対してはマイリトルハートの見学をしていたり、そもそもマイリトルハートの設立についてそのドレスを着用していたゆめちゃんより詳しかったりとしっかり尊敬しています。この人がすごいのだということを語っているようにも思いますし、もっとさかのぼってリリィは会ったこともない人物になってしまいますがシリーズの最初の主人公、文字通り荒野へ舞い降りた天使のようなはじまりの存在いちごちゃんのことを指しているのかもしれない、20数年にわたるS4の話なのかもしれない、誰とは言っていないながら少なくともリリィとしては「天使」の物語を参照していたいという思いをこのAメロから感じます。

 

 白銀リリィというキャラクターは藤堂ユリカからはじまる、いわゆるゴシック系のアイドル、アイカツスターズからは彼女だけがDCDで今年やっていたゴシッククールコレクションにも選ばれています(ユリカ様、スミレちゃん / リリィちゃん / さくやちゃん、かぐやちゃん、アリシアさん)。

 シリーズでゴシック系と形容されてるアイドルは全体的にダークで冷たい、魔術や氷のモチーフが多いブランド(ロリゴシック、ゴシックヴィクトリア、ルナウィッチ、ムーンメイデン、グロリアススノー)を身にまとうアイドルで、この曲で出てくる天使のモチーフはエンジェリーシュガーのように堂々と天使の名を掲げるブランドがあるキュートタイプがメインですから、とても面白い部分。

 

Aメロの後に5拍子の部分が入りますが

「風よ吹け雨を呼べ 遥かなる時を超え 大地へと生命へと 未だ見ぬあなたへと」

ここで風と雨が出てきます、この曲ではのすべてが登場しますが、風という言葉だけは花鳥月とは一緒に出て来ず、次に出てくるのは2番Aメロ前「風にのりどこまでも 響いてくその歌は 夢を持つ者たちの 伝説の子守歌」、リリィちゃんと仲のいい二階堂ゆずちゃんが風の毎組のS4であることからすると、どこか風だけは別の扱いをしているようにも思えます。雨、2番以降で顕著ですがこの曲は大地(荒野)に雨を降らせる天使の歌、かつての天使のように目に見えて荒野を彩る存在ではないものの希望をもたらそうという、どこか白銀リリィ自身の境遇を思わせる歌です。嵐を呼び、遥かなる時を超えて、大地や生命、どこかの誰かに恵みの雨を降らす、そんな解釈ができる気がします。

Bメロでは天使が寂しさの涙をこぼした瞬間に月も花もその羽根さえも青く染まったと、ブランドを立ち上げてはいるものの結局S4にはなれず、決して順風満帆ではなく3年生まで進級したリリィですから、思うものがあるのでしょう、青は彼女が勝ち取ったゴシックヴィクトリアがメインモチーフにする青いバラだと思えば、白い羽根を花に変えたような天使(S4)白鳥ひめの歌組にいながら青いバラのブランドを手にしたことを示しているのかもしれませんし、Dreaming birdたる彼女自身の羽根がブランドで青く染まったといっているのかもしれない。ここで月も花も青く染まっているのですが、花鳥風月の四つの組の話ではおかしいのでじゃあ何が青く染まったのかなと思うのですが、荒野の奇跡のステージはDreaming birdのステージ(2つありますがその両方)よりも青色が強調されていて青い世界を作り上げたことを示しているんじゃないかと考えました。初披露のステージだとBメロでオーラが一度消えるのもポイント。

 なお、歌組の組章はユリの花、リリィ(Lily、英語でユリ)自身にはある意味完全に合致するのですが、ブランドのモチーフには青いバラを選んでいます。青いバラ花言葉は不可能を可能にすることから「奇跡」。自らの名前にも合わないブランドモチーフを持ってくるあたり彼女が状況を変えたいと心から思ってのゴシックヴィクトリアなのでしょう。スパイスコード着用時代から歌っているDreaming birdがアイドル白銀リリィの持ち歌なら荒野の奇跡はゴシックヴィクトリアのトップとしての性格を強く反映させた白銀リリィの持ち歌という解釈をしたい。

 

 冒頭が星のツバサが出てきたタイミングかつステージのステンドグラスが吹き飛ぶ演出(ここ好き、大好きです)が入ることでもおなじみの1サビ。青い炎のオーラも象徴的で、ツンドラの歌姫」の内面をこれでもかと打ち出してくる演出です。何よりこの「抗えぬ力」ってなんだという話ですが、一言で表せないからこその「抗えぬ力」でしょうか、強いて言うならば彼女が寄り添うのはS4であり四ツ星学園といったところ。あくまで寄り添うのが彼女の生き方なんですよね、とても面白い部分。そして、ただ希望を歌ってみたい、太陽と月が地の果てをただ照らし出すように、できることをするだけ、そこに良し悪しは関係ない。籠の鳥はリリィ自身でしょうから籠の鳥が渇いた地の果てまで飛び立ったということですね。

 この曲を歌う時のドレスはロゼッタソーンコーデですがこのドレスはスカートに鳥かごのようなフープ(どう表現するのが一番正しいのだろう)を使っていて、籠の鳥は飛び立ったといいつつまだ籠の中にいるんじゃないかとも思えて面白い。取り囲む籠を纏ったまま歌い踊ることで変わりながらも変わらないブランドや自身のイメージ(ブランドロゴにもリリィのサインにも鳥かごを使ってる)を主張するものだったりするのでしょうか。リリィのサインといえな彼女のサインはLilyのiの点部分がハートになっているのがかわいいですね、彼女クールタイプなのでダイヤでもいいのですけど、キュートタイプの天使に憧れているのだと思えばしっくりきます。

 

 2サビ前の部分「風にのりどこまでも 響いてくその歌は 夢を持つ者たちの 伝説の子守歌」とサビの最後を合わせると、風に乗って飛び立った籠の鳥の歌が夢を持つ者の子守歌になるというとらえ方ができて、最上級生としての自覚なのでしょうか、2年生の時にはあまり見せなかった先輩らしい部分が強くなったように思えます。

 2番はAメロからBメロで青い翼の天使が嵐を呼びその羽根を散らして雨を降らすということですが、夜明け前の東の空に輝くのは明けの明星、金星ですからヴィーナスアークやエルザさんのことかもしれないですね、嵐を呼んで太陽を隠す、随分とまた力強いのですが、光を覆うその行動がアイドルらしくないようにも思える部分。しかしながらそうではないんですね、渇いた大地と心咲くこと忘れた花たちに生命吹き込むように雨よ降れ。渇いているのは荒野の果て、地の果てを照らしているのは太陽と月、ここまでに出てきているワードが繋がると、照らされ続けた大地では花(アイドルでしょうか、広くとらえれば希望といったあたりか)は咲けない、だから雨を降らせないといけないということになります。この雨がどういうことなのか、光で照らし続けることの反対のことだと考えれば、少なくとも周りの強者アイドルたちとは主張に一線を画するものでしょう。

 

 2番のサビ、譲れない憧れを抱きしめていながら青い羽根の天使は暗闇の中で手を伸ばさなくてはいけないんですね、これは彼女自身が雲を呼ぶからなのか、憧れとは生き方が違っていったからなのか、そんな中でも1サビの通り羽ばたいて生きるわけですね。この後に「誰もがいつの日か土へと還る」、圧倒的な死、終焉をここで刻んだうえでの、ならば奇跡を起こそう深く 緑が燃え 鳥は舞い踊り花は謳う 伝説のそう天使を讃え、「深く」は歌詞の区切りとしては奇跡を起こそうに掛かるので浅くない奇跡、死してなお残るほどのインパクトを与えようということかなと思います。緑は白銀リリィのイメージカラー、ゴシックヴィクトリアのロゴでも文字の部分は緑で、青と並ぶ大事な色。青いステージで情熱的なパフォーマンスを見せる様子なのか、そんな彼女のアイカツ、生き様を見せても讃えられるのは現在渇いた大地に生命を吹き込もうとする青い翼の天使ではなく伝説の天使なのが皮肉。このあとのCメロで何度雨を降らせても大地も鳥も花も君も渇いてくと嘆いていて、アイカツスターズ修羅の国っぷりを思うと挑発的な歌詞。しかも、こんな歌を歌うリリィ自身を含めて一握りの存在だけが生き残る厳しい世界にいながら、渇いた大地では咲くことを忘れてしまうような花にも水をやろうというやさしさを感じるのですが青い翼の天使が呼ぶのは嵐なので、それは大地を乾かす光とはまた別の厳しさの象徴、結局それぞれのアイドルがそれぞれのやり方で成長していくことが大切。

 この歌はアイカツスターズの大きなテーマにはあっているのだけどアプローチで多くのアイドルと逆方向になる、やっぱり白銀リリィの生き様を感じさせる曲。

 天と地は知っている 太陽と月然り 愛しさは愛(かな)しさよ 終わらない物語

 この部分は4拍子のままでメインボーカルの声がしっかり入ったこえがまくしたててくる落ちサビ前の見せ所。太陽と月のような対のものとして愛しさの裏返しは「かなしさ」の世界でも、物語は続いていく、情にあふれていながら無情な世界を歌ったうえで、抗えぬ力にやっぱり寄り添って、いつかめぐり会うあなた(誰なのか、「未だ見ぬあなた」なのだとすればファンであったり後輩であったり、リリィのアイカツで、歌で咲くことを思い出してくれるような人?)がいると夢見て歌うんですね。そして歌うのは籠の鳥たちの物語でこの物語が荒野の奇跡だということなら、鳥「たち」、つまり自分だけじゃない多くの奇跡を望んでいるはずで、最初の逆再生部分、君だけの物語 伝説は君の手に、に戻ってきます。籠の鳥たち、リリィ自身だけでなく、いつかめぐり会うあなたのことなら、彼女についてきてくれるファンや後輩を引き連れて進む歌です。彼女は学園のトップアイドルではないですから強気な姿勢を見せてるとも見えるのですがあくまで抗えぬ力に寄り添いながら、そういいつつもしっかり主張をやめないスタイルが好きです

 

 星のツバサ後半に登場するメインストリームで歌われる楽曲の歌詞、雲一つない空(MUSIC of DREAM!!!)や遮った雨雲もやがて消えるの(The only sun light)と比べると異様な方向性の歌詞なのですが、彼女たちアイドルのアプローチの違いが分かるので比べえると楽しい曲でもあります。

音楽を奏でよう、この歌で輝き続けるの、わたしは歌う。